大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和33年(く)2号 決定

少年 (昭和一五・六・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は記録中の附添人S名義の抗告理由書記載の通りであるからこれを引用する。

しかし記録を精査検討すると本件は結局少年等の喧嘩闘争にもとづく非行の案件と認められ、その間被害者側にも責むべき点多く非行の動機には酌量の余地も認められるが本件の場合は寧ろ少年が自己に危害の及ぶことをおそれその機先を制して進んで反撃の挙に出たものであり、兇器の種類、用法からみて己むを得ざるに出た行為とは到底認められないから所論正当防衛の主張は容れ難い。

なお記録に現われた本件非行の動機、その経過、非行後の情状等仔細に検討し、更に少年の性格、年令、家庭環境特に少年に対する保護能力、高校生であることなど所論の諸事情を考慮しても本件事案の態様、特に兇器の用とこれが致死の結果を招じた事実、原判示摘示の少年の特性などからみて少年を中等少年院に送致する旨の原決定は相当であり、著しく不当の処置とは認められない。論旨は理由がない。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により主文の通り決定する。

(裁判長判事 谷弓雄 判事 小川豪 判事 松永恒雄)

別紙一(附添人の抗告理由書)

第一点 原決定が小年の非行事実として認定する処に依れば「前記三名に取り囲まれ攻撃の身構をして迫つてきたので危険を感じ咄嗟に自己所携の匕首刃渡十二糎で立向つて来たBを刺し(中略)死亡するに致らしめたものである」となつているにもかかわらず、原決定が之を目して単なる傷害致死罪に該当するものとしているのは明らかに法律の適用を誤つたものか又は重大な事実を誤認したものである。即ち原決定の右認定事実自体と、被害者Bが現にチエインをポケットにしのばせていた事実(近時暴行傷害を常習とする不良の徒輩が屡々チエインを携帯することは顕著な事実である)及び右B外二名がポケットに手を入れたまま周囲から迫つて来た事実とを併せ考えるならば少年の本件行動は疑もなく防衛行為であり、刑法第三十六条第一項又は少くとも同条第二項の適用されるべき場合であることは明白である。尚このことは少年の検察官に対する供述調書からも充分に推測されるところである。

右の次第で少年の正当防衛行為を黙殺した原決定は当然取消されるべきものと思われます。

第二点 原決定が処分理由として述べている処に依れば「家庭に保護能力があり少年にも強い反社会性はなく自省しており再犯の虞れもないと思われるが、なお少年保護の適正を期するためには少年を少年院の矯正教育に委ねるを相当と認める」となつているが、非行の前歴もなく再犯の虞も絶無で大学進学の希望に燃える少年を健全な家庭から敢て少年院に移し、その矯正教育を施さねばならぬ理由は何処にも発見し得ないものと言うべきである。仮りに少年に多少の怒り易い昂奮性があるにしても、この種の性癖を矯正するのに、健全な家庭の保護矯正に委ねるのと少年院の矯正教育に俟つのと果していずれがより効果的であるかは、何人が考えても自明の理と思われる。健全な少年を少年院に収容することに依つて却て少年を不良化せしめることは遺憾ながら余りにも顕著な事実であるといわねばならない。このように考えるならば、少年の昂奮性を矯正する為には、保護観察処分と健全な家庭の保護指導に俟つことが最も適正妥当な方法であり、この点に於て原決定は取消に値する処分の不当性を帯びるものであると思われます。

別紙二(原審の保護処分決定)

○主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

領置してある登山用ナイフ一個(昭和三三年領第四号の八)はこれを没取する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和三三年一月四日午後七時過頃、○○郡××町大字△△第二○○座で、映画観覧中、同日午後一〇時三〇分頃、同劇場入口附近において、同郡○○町大字××△△△番地Kから、同所を通行中、身体が当つたことに因縁をつけられて殴られ、口論となつた際、Kの友人、同郡○○町大字××△△△番地B他一名が、これに加勢し同人等より「表に出い」と言われ、一旦拒否しながら仲裁人の身を案じ、自ら前記○○座前国道(二四号)に出たところ、前記三名に取囲まれ攻撃の身構をして迫つてきたので、危険を感じ突差に自己所携の匕首刃渡一二糎で、立ち向つて来たBを刺し、同人の第三、四肋間に、深さ六糎の刺創心臓刺創を与え因つて同日午後一〇時四〇分頃、同郡○○町大字×××△△番地、○○診療所内において死亡するに致らしめたものである。

(適用法令)

判示の所為は刑法第二〇五条第一項に該当する。

主文には少年法第二四条第一項第三号を

領置物には同法第二四条の二第一項第二号をそれぞれ適用する。

(処分理由)

少年の知能は平均値上位にあり、大学進学の希望をもつて、平常学業に励んでいた。

しかしその心情質には強度の偏倚はないが、自己不確実、即行、気分易変、自己顕示、爆発等の個有徴標があつて、自己中心的傾向を示し、自制力はある程度保持できるが、被影響性は強く、被刺戟的な面が表面化すると、偏狭な自己防衛的怒りを発して速断的で、直接的な行為に顕現し易い。本件非行はかかる諸徴標が発現したものとみられる。家庭に保護能力があり、少年にも強い反社会性はなく自省しており再犯の虞れもないと思われるが、なお少年保護の適正を期するためには、少年を少年院の矯正教育に委ねるを相当と認めて主文のように決定する。

(昭和三三年二月八日 松山家庭裁判所西条支部 裁判官 大西信雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例